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フィンローダのあっぱれご意見番 第127回「無責任な仮想空間」

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インターネットに絡んだニュースも最近は奥の深いものが増えてきた。 最近興味深かった事件としては、 猫を虐待した画像を掲載した人が、動物愛護法違反ということで、 懲役6か月執行猶予3年の判決を受けたというものがある。

裁判官の判決理由には 「ネットという無責任な仮想空間で悪意を増幅させた悪質な犯行だ」 とあったが、 無責任な仮想空間なら裁判で有罪になったりしない筈だから、 それは何か違うと思うのだが、 ま、それはそうとして、一つ気になることがある。 この裁判では、 「ネット中継され、 犯行を止めようにも手が届かないところで虐殺行為が現実に進んだことで、 多数の人々に、不快感や嫌悪感を超えた深い精神的な衝撃を与えた」 というのが判決理由になっているらしい。 これは100%その通り、事実だと思う。 ただ、ネットはそんな簡単なものではないと思うのだ。

先に断っておくが、私は法律に関しては素人だし、 裁判官に反論するつもりもない。 プロが判断したという理由だけでも、 それは正しいのだと無条件に受け入れてもいい。 ただし、それはもちろん、判決の前提が受け入れられる場合に限る話である。 今回のポイントは「虐殺行為が現実に進んだ」という所にある。 今回の判決はこの事実が重要な理由になっているような気がする。 しかし、このコラムを読んでいる皆さんならご存知の通り、 昨今のコンピュータのスペックを駆使すれば、 実際に猫が虐待されているのか、 あるいはCGで作った画像なのか、 パッと見た程度では簡単に見分けが付かない程度の画像を作るのは、 そんなに難しい話ではないと思うのだが。

で、今回の判決を下した裁判官にお尋ねしたいのは、ソコなのである。 言うまでもないが、CGを作っただけでは、 実在するいかなる動物も虐待したことにはならない。 これは争う余地がなかろう。 では、それを仮にWebで公開したら、どんな罪になるのか?

言い換えれば、CGを公開しただけでも動物愛護法違反は成立するのか、 という疑問なのであるが、 で、私見というか、先走った感想を。 もしそれで今回と違う判決が出るようなら 「多数の人々に、不快感や嫌悪感を超えた深い精神的な衝撃を与えた」 という理由が判決にあるのはおかしい。 なぜか。 実は、虐待が本当にあったかどうかということは、 ネットを見ている人からは判断できないのである。 だいいち、 裁判官自らネットを無責任な「仮想空間」と断言しているではないか。 一般に認識されている通り、それは現実とはかなりかけ離れた世界なのだ。 極論を言えば、 それが現実なのか空想なのか分からないはずの世界を見て現実だと思い込んでしまった観客にも、かなりの責任があるのではないか。

あるいは、むしろ「ネットという仮想空間中で現実にあったのだ」 とまで言い切ってくれた方が個人的には面白いような気がする。 殺人の画面をCG合成したページを公開したら殺人容疑で有罪になってしまった、 という時代がそのうち来たりして。 もちろん、その判決はネット上の人格に対してなされるべきだと思うわけだが、 とりあえず、CGであろうが現実であろうが、 観客に不快感を与えたのだから有罪だというのは筋が通っている。 ただ、そもそも快感とか不快感というのは個人の感性の問題から、 一つ間違えると、 憲法が保証している「思想の自由」や「表現の自由」にまで発展する大変な話になってしまうのかもしれない。

§

社会民主党がピンチらしい。 拉致問題に関する論文が公式サイトに掲載されたのが失敗だという。 私が見た時は既にそのページは削除されていたが、 情報を削除したからといって公表した事実が消滅するわけではない。 ネットの常識だ。 他サイトに同じ文章が掲載されていたりするし、 キャッシュサイトを使えば一旦公表したページは結構後まで残っているものだ。 誰でも簡単に情報発信できる時代になって、 気軽に不確定な噂を出してしまう人もいるかもしれないが、 結局、発信した責任は自分に返ってくるのである。 それは忘れると大変な目にあうと思う。。

この事件にはもう少し奥の深い現実がある。 実は、この原稿を書くちょっと前に社民党のサイトを見たのだが、 トップページに「Web Content Accessibility Guidelines」という言葉が出てくるのである。

余談だが、アクセシビリティというのは、誤解を恐れずに概説してしまうと、 要するに何か不自由な人達にも使えるようにデザインしろということである。 不自由って何、というツッコミがあるかもしれないが、 そろそろ「不自由」という表現は差別的だから禁止しろと、 などという人が出てくるのかもしれない。 回線が高速になって大容量の動画・音声データがストレスなく転送できるようになれば、 Webサイトのデザインの自由度も飛躍的に増える。 もちろん、デザインよりもコンテンツが重要なのは分かりきった話だが、 ひねくれた見方をすれば、 コンテンツの魅力不足を補うための逃げ道として、 デザインで目をそらすという技もアリかなと思う。 もっとも、デザインが素晴らしくてリピーターになってしまったぞ、 というようなサイトは今まで経験したことがないが。

その話はまたの機会ということにして、 社民党のサイトの話に戻すと、 実はトップページからアクセシビリティ指針を和訳したサイトにリンクが張ってあったのだ。 それだけならいいのだが、 リンク先のページは和訳ではなくて「移動しました」 という内容になっているのである。

リンクが切れたわけではないのだから、 そのことは拉致問題ほど致命的ではない。 問題は、公式サイトのトップページがなぜそのような状態のまま公開されているのか、 という所にある。 これだけインターネットが普及したら、 公式Webサイトというのはその主催者の顔そのものと言っていいだろう。 あまりヘンなページを放置しておくと、 このIT時代について行く程度のスキルもないのか、 と勘繰られる。 一般的に、 政治家というのは比較的年齢層が高いので、 IT化に柔軟に対応するのは大変なのかもしれないが、 日本の未来を任せようという人たちがそんな状態では困る。 もちろん、 小泉内閣は世界でも有数な購読者数を持つメーリングリストを運営しているし、 民主党の管氏は、 拉致問題に関する世論の批判が出たときに、 自らのサイトを使って即座に謝罪の文章を掲載した。 政党トップが何もしていないわけではないのだ。 では社民党は?

移転したというページをリンクし続けているという事実から、 2つの重大な欠陥が分かる。 まさか社民党員にインターネットしている人がいない、 なんてことはありえないだろう。 自分の所属している党のページがおかしいことに気付いたら、 何かリアクションするのが自然だ。 ということは、社民党員ですら社民党のサイトはあまり見たことがないのではないか。 もっとも、アクセシビリティ指針のページというのは、社民党の最新の政策に深く関わる話ではなさそうだから、一度見たら二度とリンクをクリックしない、という類の話なのかもしれないが。 つまり、あからさまに言えば、 サイト自体の魅力が欠如しているのではないだろうか。

余談だが、リンク切れをチェックするソフトウェアはいくらでもある。 あると思うが実際に数えたわけじゃないから、実はそんなになかったらすみません。 私なんか自分で作ってしまった位だ。 処理はそれほど大したものではない。 要するにリンクに現れるURLを一つずつアクセスしてみて、 皆さんもご存知 404 Not Found というステータスが返ってくるかどうかを調べるだけのことである。 ちょっと書き方が古いかもしれないが。 Java の場合、List 1 の程度の話である。

---- List 1 (アクセスできるかどうかをチェック) ---- 

    // import java.net.*;
    // URL url;

    HttpURLConnection huc = (HttpURLConnection) url.openConnection();
    int resultStatus = huc.getResponseCode();
    huc.disconnect();

---- List 1 end ----

ややこしい処理は全部 HttpURLConnection クラスがやってくれるから、 ここでは URLを指定してレスポンスコードを受け取るだけだ。 ただ、実際に使おうとすると、 サイトによっては応答まで随分待たされたりするので、 いろいろ工夫が必要になる。 例えば、スレッドを生成して同時に複数サイトを並行してチェックするようにするとかなりいい感じになる。 さらに、その結果をデータベースで管理しようとするとか、 その気になれば複雑になる要素はいくらでもある。 もっと頭が痛いのは、今回のケースのように、 リンクが切れたわけではなくて、 リンク先が「移転しました」という内容のページに変更されたことを、 どうやって自動検出するかという問題だ。 名案はありますか?

§

もう一つの欠陥とは何か。 枯れた表現だが、インターネットも本来双方向性を持った媒体なのである。 リンク切れのようなトラブルは、 それに気付いた人が気軽に知らせたら終わる話だ。 Webデザイン的にも、これは結構重要なことである。 会員規約でトップページに必ずメールアドレスを書くことが義務付けられているようなさービスもあるが、 実際はどこに連絡していいか分からないことが結構ある。

社民党のサイトの場合、簡単ではなかったが、メールアドレスは分かるようになっている。 問題は、そのアドレスが機能していないということだ。 つまり、メールを送っても連絡が担当者に行かないのか、 あるいは無視されてしまうのである。

なぜそんなことが分かるかというと、実は私が実際メールで報告したからだ。 もちろん、無視ではなく、 単に処理に2週間以上かかるというだけの話かもしれないが、 よく見てみると、実はその移転通知のページの最終更新日が 2000年11月21日になっているのである。 つまり、約2年前から移転通知が出ているのに、 2年間放置していたことになる。 それに先に気付けば、メールを送る前に無駄なことが分かったはずだし、 メールアドレスをそういうサイトに知られたら危険ではないかとか、 いろいろ考えることもできたのだが、とりあえずネタにはできたのでいいか。

  

(C MAGAZINE 2003年1月号掲載)
内容は雑誌に掲載されたものと異なることがあります。

修正情報:
2006-03-02 裏ページに転載。

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