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フィンローダのあっぱれご意見番 第156回「相手を知り己を知ればとっても便利なのだ」

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ライブドアとフジサンケイグループの合戦も、そろそろ佳境に入っているか、 休戦しているか、原稿を書いている時点では予測できないのだが、 とにかく野次馬する分には結構面白かった。 プロ野球を見るよりも数段面白い。

 

※ ライブドアがニッポン放送の株を買い占めて話題になった。 結局、フジテレビが株を買い取ることで手を打つことになった。

ライブドアの堀江社長は球団を作ろうとしたときに、 インターネットと野球のコラボレーションを計画しているようなことを言っていたような気がする。 結局、楽天球団が誕生し、ダイエーがソフトバンクになっても、 野球人気があがったようには見えない。 逆に、インターネットで何かしているのだろうか、みたいな感じがする。

 

※ 実際に、 楽天の試合のライブ映像をインターネットで配信するという話があるらしい。

もう10年ほど前だと思うのだが、 やっとWebが家庭で普通に使えるようになってきた頃、 ヤクルトのファン専用掲示板というのがあった。 今でもあるのかもしれない。

今のように、インターネットで試合をライブで見られるような時代ではなかったし、 もちろん、TVは巨人が絡んだ試合しか放送してくれない。 しかも、放送終了時間になったら、9回の裏2死満塁でも平気で放送終了にしてしまう。 もっとも、そういう風潮は今も変わらないか。

  

ヤクルトの試合はあまりTVで放送されないのである。 ラジオも放送してくれるとは限らない。 そこでどうするかというと、インターネットの掲示板なのである。 試合を見ている人が、そこに現状をリアルタイムで書き込んでくれるのだ。 しかも、書いている人がヤクルトのファンだから私情が入っている。 同じヤクルトのファンとして、これがまた盛り上がる。

 

※ 昔はよく、TVとかビデオを見ながら chat した。 全員が同じものを見ていて、感想とかリアルタイムで書き込むのだ。

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ライブドアは放送メディアに対してインターネットを使った提携活動を提案しているそうだが、メディア側の反応は鈍いようだ。 これは大体想像できる。 TVのインタビューとか見ていると、 今のテレビやラジオの世界で生きている人たちの感覚が、 どうも10年ほど遅れているような気がするのだ。

もっとも、殆どの人は、インターネットとは何なのか、 本気になったら何ができるのか、そんなことは理解していないはずだ。 単にメールやホームページを使うための仕組みだろ、程度のものだろう。 それは確かに間違ってはいないが、インターネットの1%しか見えていない。

デジタルテレビ放送が始まったときに、面白いキャッチフレーズがあった。 今までのTVとは違い、 双方向メディアだというのだ。 インタラクティブという言葉も出てきたような気がする。 視聴者参加番組、という表現もあったかもしれない。

つまり、 テレビをやっている人たちの感覚というのは、 その程度のものだと思った方がいいのだ。

デジタルTVといっても、インターネットに常時接続している訳ではない。 皆さん既にご存知の通り、 電話をかけて、1分10円の料金を払って、2400bpsで接続するのである。 では、それは電話でリクエストするラジオ番組とか、 電話アンケートの結果を生放送する討論番組と、一体どこが違うのだろうか?

そう、単に今までやってきたことを電話回線を使って実現しただけなのだ。 要するに、視聴者から情報を受け取る方法が1つ増えただけだ。 これがインタラクティブだというのは大げさすぎるのである。 なぜなら、アンケートがリアルタイムに実施できるとか、 オークションができるとかいうが、 そういうのはアナログ放送で既に実現しているではないか。

もちろん、電話回線をインターネットに置き換えても状況は変わらない。 確かに、リクエストを電話や葉書ではなく、 メールや掲示板で受け付けると、 それなりに便利になるかもしれない。 しかし、それは私に言わせれば、 インターネットの能力をさらに1%を引き出しただけとしか思えない。

テレビ放送は、かなり前から慢性的なコンテンツ不足に陥っているらしい。 コマーシャルの前後を水増しして見かけ上の放送時間を長引かせるのは当たり前、 再放送に予告番組の乱発。 こういう時代に コンテンツが欲しいのは、 実はインターネットのサービス提供側だけでなく、 むしろ、テレビやラジオの番組を制作する側なのかもしれない。 ブログや個人サイトの記事を番組で取り上げるという企画があるらしい。 商店街に取材にしに行く代わりにブログの情報を使うだけなら、 インターネットの能力をさらに1%引き出したに過ぎないが、 ブログを設置している側にとっては宣伝効果があるのかもしれない。

こうやって1%ずつ能力を引き出していけば、 そのうち結構使いこなしていることになるのかもしれないが、 そういう悠長なことをしていて大丈夫なのだろうか。

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だったらインターネットを使ったTV放送とはどういうのか言ってみろ、 という反撃は必ず来るだろう。 ライブドアのような企業は、 その種のアイデアをたくさん持っているはずである。 ただ、それはトップ会談のような場では言えないだろう。 なぜなら、おそらくアイデアの大半は、ビジネスモデル特許に関係するからだ。 アイデアそのものが膨大な価値を持っているかもしれないのである。

だが私はライブドアとは無関係なので想像してしまうし書いてしまうのだ。 基本的にインターネットのメリットとは何なのか。 双方向性とは何か。 そこを考えれば分かりやすい。 双方向性というのは、視聴者Aがある番組を見ているということを、 付加情報も追加してTV側に知らせることができる、ということだ。

電波は、それがどこで受信されているかを知ることはできない。 だから、今までのTV放送は、誰が見ているかを放送局側が知ることはできなかった。 インターネットでTV番組を配信する場合は、これが可能になる。 なぜかというと、インターネットの場合は、情報を配信した機器から、受け取る機器までの間の経路というものが必ず存在するからだ。 マルチキャストですか…まあそれは気がつかなかったことにしてください。

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サーバーがリクエスト情報を蓄積することが可能になると、 それを使って、どんなサービスができるのか。 たとえば私の場合。 インターネットTVである深夜アニメ「A」を見たとする。 最近、深夜アニメはまた活発化していて、 PSXは30番組しか録画予約できないので困っているほどである。 もっとも、録画しても見る暇がないというのも困ったものだが。

 

※ 30番組ということは、1日に5本程度でパンクする。 最近の深夜アニメの数はただごとではない。 しかし、録画予約の数よりも深刻な問題は、 放映時間の重複である。

余談はおいといて、 このアニメは、 インターネットTV局のサイトに「番組ページ」があって、 そこで番組へのリンクをクリックしたら見ることができる、 という仕組みを想定しておこう。

さて、私が他の深夜アニメ「B」を見たとする。 これでサーバーには、私が「A」と「B」を見たという情報が記憶されている。 ここでサーバーが今までの視聴者の利用状況を分析すると、 「A」と「B」という深夜アニメを見ている人は、高い確率で「C」というアニメも見ていることが分かる。しかし、私はまだ「C」を見ていない。

すると、次に私が「番組リスト」を表示した時に、 いつもと違って「新アニメC、好評放送中」と画面に書いてあるのだ。

  

このような手法は amazon が既に行っている。この本を買った人はこれも買っています、というアレだ。 確か購買履歴を使って recommendation を出すという手法に、ビジネスモデル特許が成立していたと思う。 TV番組で既にそういうことができるかどうか知らないが、 最近のビデオデッキは同じジャンルの番組を絞り込む機能があったりするから、似たようなことはできるかもしれない。

 

※ ときどき、何でこれを買っているだ、 というような奇天烈な recommendation を出すことがある。 ロジックは極めて単純であるような気がするが、不可解だ。

ここでのポイントは、 AとBを見ている人がCを高い確率で見るという事実を、 機械的に判断できるということなのだ。 嗜好情報とか、番組の分類とか、そのような付加情報は一切不要で、 視聴者のアクセス状況の累積情報がサーバー側にあるだけでいい。 さらに視聴者が自発的に嗜好情報とか、気になっている話題とかを送信すると何ができるだろうか。 ともかく、そういうのを双方向性を使った番組というのである。

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ところで、先に書いたような処理を勝手にしていいのか、 と気になった方がいるだろう。 4月から個人情報保護法が本格的に施行されているからだ。

個人情報を扱う場合には、事前に承諾が必要だし、いろいろ面倒である。 ただ、これは簡単に回避できるのである。 サーバーが個人を特定できないようにすればいいのだ。

AとBを見ている人はCも見ている、 という状況を機械的に判断したいだけなら「誰が」という情報は必要ない。 誰かわからないがそういう人がいる、という情報だけで十分なのである。 具体的なシステムを想像しよう。 Aを見た人は、クライアント側に「Aを見た」という情報が保存される。 次に、この人がBを見るときに、 サーバー側に「Bを見たい」というリクエストを送信する。 このとき「私はAを見ている」という情報も一緒に送るのだ。

  

サーバー側は、「Aを見た人がBを見た」というカウントだけを記憶しておき、 それ以外の情報は捨てる。 そこには個人を特定できるような情報は存在しない。

 

※ サーバーに個人情報を保存してくてもこのような営業活動が可能になる、 ということが重要なのである。 個人情報保護法が施行されたこともあるが、 同じことができるのなら個人情報を扱わないことのメリットは大きい。

次に私がリストページを見るときに、 「Aを見た」と「Bを見た」という情報を送る。 サーバーには、この人が誰なのか知らないが、 AとBを見ていてCを見ていないことは分かる。 それだけあれば「新アニメC、好評放送中」と画面に書いたページを表示するには十分なのだ。

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クライアントにこのような情報を持たせると、 クライアントが複数のサーバーに対応できるというメリットが発生する。 別のインターネットTV局が配信しているXというアニメを見るときに、 「AとBとCを見た」という情報を送ってもかまわないのだ。 あるいはTV局とは全然関係ない個人サイトが 「アニメ見るならこれもだよ」というサイトを立ち上げて、 全局を網羅したような推薦番組情報を提供することができる。

  

このあたりからインターネットの双方向性というメリットが、 さらに威力を発揮し始める。 何とTV局が何も考えなくても、 どの番組を見ているという情報があちこちで使われて、 おすすめ番組サイトが勝手に増殖していく。 すると、どの番組サイトを見ればよいか分からなくなって、新たな混乱が始まったりするかもしれないが、それはまた新たな世界の始まりでもある。

 

※ ミュージックバトンというのが最近まわってきた。 「よく聞く曲は?」みたいな単純な質問に答えて、同じ質問を5人に回す、 というものである。 ロジックは昔あった Make Money Fast (今もあるが)と同じであるが、 単純に考えたら、誰も損も得もしない。 しかし、現時点でどんな曲を聴いている人がいるのか知りたい企業があるとすれば、 そのようなページがインターネット上で増殖することは、 大きなチャンスが出現したことを意味する。

コンテンツ不足と言われている反面、視聴者は情報過多に悩んでいる。 インターネットとTV番組のコラボレーションは、 それを解決する策の一つになるはずなのだが。 まあ個人的には、コラボレーションとかしなくても、 全部インターネットだけで済んでしまうような気もする。

  

(C MAGAZINE 2005年6月号掲載)
内容は雑誌に掲載されたものと異なることがあります。

修正情報:
2005-06-26 注釈追加版を公開。 2006-03-01 裏ページに転載。

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