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フィンローダのあっぱれご意見番 第100回「木を見て森を予想する」

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iモードの登録者数が1000万人を突破したそうである。 それまで日本で最も会員が多かったプロバイダが@niftyだったそうだが、 プロバイダという表現に語弊があるとしても、 結局1年程度でその倍の人数を集めてしまうというのがブームの恐ろしさだ。 もっとも、どういうわけか私はまだiモードを持っていない。 VAIOノートを持ち歩いているので、 特に携帯電話でインターネットするメリットを感じていないのかもしれない。

 

※ 2006年現在、 FOMA を使うようになったが、 やはり画面のサイズというのがネックになっている感じがする。

iモードに限らず、携帯電話やPHSで面白いのがメールの使い方である。 パソコンからメールをやりとりする場合、 最近は添付データのサイズが肥大化して1MBを超えるようなものになったりしても驚かないのだが、 携帯電話等のメールというのはこの対極を突っ走っている。 その原因は明らかである。 携帯電話の画面サイズは小さいので、少し長いものは読むのが大変である。 また、電話には通常テンキー+α程度のボタンしかないので、 これを使って長い文章を入力するのは慣れても大変だ。 そして、真打は電話代。 iモードはDoPaと同じようにパケット課金になっていたはずである。 つまり、何バイト送って何円、というような料金システムなのだ。 メールの内容がごく短いなら、これは便利さと比較して問題にならない程度の価格である。 1~2円で用件を伝えることができるので、 最低でも10円取られる通常の電話料金に比べるとお得なのだ。 ところが、メールが長くなると、そのコストは途端に跳ね上がるのである。

 

※ 最近は定額料金プランも普通にみられるようになった。

もっとも、iモードの場合は、 ある程度長いメールを受信した時には先頭の限られたサイズしか受信しないらしいし、 そんなに長いメールをiモードから送るのも無理である。 だから、びっくりするような請求書が来ることはないはずなのだが、 この前、山手線の中で何人かの若者の会話を立ち聞きしていたら、 たまたま話題が携帯電話の料金の話になった。一人は15,000円、 もう一人は3万円程度を毎月支払っているらしい。 15,000円が1000万人とすれば…うーむ、いい商売のような気が。

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インターネットの犯罪も増えている。 最近の発表では昨年の倍程度だという報告があったと思う。 インターネットの利用者人口が倍になっているのだから、これはある意味当然である。 特に比率が増えたとか、ハイテク犯罪が新たに加わったとか、そういう話ではなくて、 例えばインターネットのオークションで詐欺にあったとか、 要するに今までインターネット以外の手段でごく普通にあったパターンのチンケな犯罪が、 インターネットという場で行われるようになっただけの話である。

それにしても、@niftyのように、 入会時に(一応)ちゃんと審査しているようなコミュニティでも、 基本的には誰かを信頼できるかといったら、それはちょっと分からないというのが常識である。 実際、@niftyの掲示板では、個人売買でのトラブルは後を絶たなかったのである。 ましてやインターネットとなると、架空の住所等でアカウントをgetすることはもっと簡単なのだから、 最初から犯罪目当ての第三者を見破るというのは、かなり難しいと思う。

だいたい、何かを売り買いした時に金を払わないだとか、 品物が思ったものと違うとか、その程度のことなら全く無知の第三者どころか、 場合によってはかなり親しい友人間でもありそうな話だが、…というのは私の交友関係がよくないのか。 それはともかく、「金を貸すならあげたと思え」というのが家訓だという人も多いと思うのだが、 当然getできるはずの金がどこかに行ってしまうというのは、それほど日常茶飯事なのだろう。

もう一つ問題になっているのは、個人を特定するための識別情報である。 例えば私の場合、RIMNETに個人ページを公開しているのだが、 これが私の作成したものであることを証明するにはどうすればよいだろうか? Webページの作者の勘違い程度なら、単なる勘違いで済むのだが、 金銭が絡み始めるとそれではすまない。 このあたりの問題が保留されたまま利用者人口が増えるのだから、 リスクがあることを利用者も承知したうえで使うしかなさそうである。

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日本語訳が最近出たウェブ・ユーザビリティという本、これが結構面白い。 @niftyのFPROGORGでも紹介したのだが、いい本である。 サイトのデザインの重要性は、企業ページでさえ見落としているようだ。 というか、FPROGとかのページも実はぼろぼろだったので、 ちゃんと見直してみようと思って仕入れた書籍のうちの一冊である。 世の中には、数十万円で教材を販売して、 サイトを作成する技術を教えますとかいう商法があるらしいけど、 本当に数十万円でそういう技術が身に付けば安いものだと思う。 実際は身に付かないというか、センスのいいサイトを作るには、 やっぱりセンスが必要なわけで、ある程度は努力で何とかなるかもしれないが、 やはりこれは才能にかなり左右される技術のはずだ。

前にも書いたかもしれないが、 配色が奇天烈で読めないサイトがある。 例えば水色の背景に黄緑の字とか、青の背景に紺色の文字というような感じだが、 わざと読めないようにしている場合はともかく、 どういうセンスを持っているとこういうデザインになるのかが分からない。 他人の色覚というのはよく分からないもので、もしかすると、 世の中には青に紺色でも明確に識別できる人がいるのかもしれないが、 私にはちょっとそういう配色は見るのに厳しいのである。 先に紹介した本だと、赤と緑を識別できない場合まで考えた配色をするように書いてあったが、 実際にあるページにはそれ以前の問題という感じのものが結構あって、世の中のサイトがどの程度なのかを思い知らされるものである。

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この本によれば、左上に何が書いてあるかということが、 Web page を作るときに結構重要らしい。 なぜかというと、そこは最初に見る所だから。 確かに、画面サイズがどうあれ、 とりあえずブラウズできるソフトウェアを使うのであれば、左上は多分見えるはずである。 裏を返せば、重要なことを右下に書いてしまうと、 ブラウザの画面サイズによっては読んでもらえなかったりするわけで、 これを逆手に取ったデザインのページもないわけではない。 例えばアダルト系のページで、 お子様には気付かれないようにそういった工夫をしているものを見たことがある。 何を見たって?

 

※ ペーパーカタログのデザインでは、 Z型に重要な商品を配置するという定石がある。 チラッと見るときに、 そのように視線が移動するらしい。

それはおいといて、 こういう設計をすると、 お子様だけでなくお得意様にも気付かれないという可能性があるわけで、 もし大勢のターゲットを考えているのなら、 結果はいまいちだと思われる。

一部を見て重要なことを伝えるというノウハウは、 生活シーンの中にかなり細かく入り込んでいる。 例えば銀行のキャッシュカードとかもそうだ。 最近はキャッシュカードのデザインもいろいろあるのだが、 今回ポイントとして考えたいのは、 パスケースに入れた時に全体が見えないことがあるということである。 fig.1 はパスケースの写真だが、左の2枚のカードは、ぱっと見ただけでどの銀行なのか分かる。 これに対して、右の2枚のカードは、上のカードが「ご預金のお出し入れ」という情報しかない。 下のカードは「矢印の方向にお入れください」と書いてあるが、 やはり何のカードなのか分からない。 その右側に小さな文字で何か書いてあるが、 実はこれはカードのデザインに使われているキャラクタに対する著作権表示なのだ。 わざわざこんな所に表示しなくてもよいと思うのだが、 カードの上側の僅かな部分が使い勝手にどれだけ影響するかということをデザイナーが見逃したのだろうか。 ともかく、従って、この2枚のカードは、あらかじめ何か別の情報がなければ、 取り出さなければ何のカードなのか判別できないことになる。 これはUIとしてはいまいちという評価になる。

  

ところで、別の情報というのも結構重要である。 白黒だと分からないのだが、実はこの4枚のカードの色は全て異なる。 従って、使い慣れれば色によって識別することができる。 PlayStationにXIというサイコロゲームがあるのだが、 Webの掲示板でゲーマーが書いたものを見ると、 サイコロの目を合わせる時に、 数字ではなく、 サイコロの面の色であわせているようだという指摘があった。 このゲーム、1~6の目に対して別々の色が使われているのだが、 一瞬のタイミングでサイコロの目を揃えるという操作を、 目の数を見るのではなく色を見ているというのだ。 一瞬の判断においては、 色というのは予想以上に効果が高い情報なのかもしれない。 最近は、キャッシュカードを作る時に複数のデザインから選択できる銀行もあるから、 カードはできるだけカラフルなものを、既に持っているものとのバランスも考えて選ぶのがよい。

 

※ 色だけで識別させるのはよくないが、 補助的に使えば便利であることも事実だ。

写真を見てちょっとしたことに気付いた人はいるだろうか。 「ご預金のお出し入れ」という表現は何か違和感があるはずである。 キャッシュカードは、普通、預金の出し入れをするものなのでは。 だから、他のカードは「矢印の方向にお入れください」と書いてある。 それに比べて、「ご預金のお出し入れ」という文字は強調された太い文字になっている。 実はこのカードは、逆方向から入れた時にはローンの借り入れになるという特別なカードなのだ。 どちらの方向から入れる可能性もあるために、 どの方向がどの機能に対応するかという説明を書く必要があったのだ。 しかも、間違えて入れることを防ぎたいということから、 その説明は判別しやすいものでなければならない。 太い文字になっているのは、そのためだろう。 私見としては、 もっと思い切って左右とか上下で色を変えるとか柄を変えるようなデザインにした方が、 間違いは防げるのではないかと思う。 ただし、このカードの入れる方向を間違えたことは、今のところない。

プログラミングでも、 最も多く実行される処理を最適化するという方法があるが、 最も注目される所を全力でデザインするとは、 お手軽なやり方で効果も結構あると思われる。

  

(C MAGAZINE 2000年10月号掲載)
内容は雑誌に掲載されたものと異なることがあります。

修正情報:
2006-03-12 裏ページに転載。

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